SAPプロフェッショナルコラム
Clean core時代のFit to Standard
― 競争力の源泉をどこに置くか ―
Clean coreは、単にシステムを標準化するための考え方ではありません。将来の変更に対応しやすい状態を保ち、経営や業務の選択肢を狭めないための考え方です。
前回のコラム(Clean coreとは何か)では、Clean coreを「将来の経営判断の自由度を守る考え方」として整理しました。本コラムでは、Clean coreを実務に落とし込む際に重要な論点となる「Fit to Standard」と「アドオンの扱い」を考えます。
誤解から始まるFit to Standardの議論
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- SAP S/4HANA移行やClean coreを検討する際、多くの企業が最初に直面するのがアドオンの扱いです。
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●長年使われてきた独自機能をどうするのか。
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●SAP標準機能へ置き換えるのか。
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●それとも、現行通り移植するのか。
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この判断は簡単ではありません。
なぜなら、そのアドオンが単なる過去の名残なのか、現在も業務を支える重要な仕組みなのかを、一見しただけでは判断できないからです。 - こうした議論の中でしばしば耳にするのが、次のような認識です。
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この判断は簡単ではありません。
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●Clean coreとは、アドオンをなくすことではないか
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●Fit to Standardとは、SAP標準に業務を合わせることではないか
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ただし、この理解はFit to StandardやClean coreの一面に過ぎません。
Clean coreやFit to Standardが本当に問うているのは、アドオンの数ではありません。 - 「その改修は、自社の競争力につながっているか」
- これが本質的な問いです。
- 以下の切り分けこそが、Clean core時代のFit to Standardの本質です。
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ただし、この理解はFit to StandardやClean coreの一面に過ぎません。
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●競争力に直結しない領域:標準化してコストと保守負荷を抑える。
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●競争力の源泉となる領域:正しい場所で投資を集中する。
アドオンは必ずしも「過去の技術負債」ではない
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Fit to Standardの議論を進める前に、重要な前提があります。
すべてのアドオンを「過去の技術負債」と捉えるのは適切ではありません。 -
SAP ERPが多くの企業に導入された2000年代、SAP標準機能や周辺技術では十分に実現できないケースがありました。そのため、アドオン開発は現実的で合理的な選択でした。
つまり、多くのアドオンは「当時の技術と製品機能を前提にした最適解」だったのです。 -
しかし、20年が経過し、SAPシステムを取り巻く技術環境は大きく変わりました。
例えば、かつてSAP Enterprise Portal上にiViewを構築し、経営指標やBWレポートをWeb画面で参照していたケースを考えます。
当時は、経営層や管理部門がブラウザから経営指標を確認できるようにするための有効な手段でした。
現在では、同じ目的をSAP標準機能や拡張基盤(SAP Fiori、SAP S/4HANA Embedded Analytics、SAP BTPなど)で実現できる可能性が広がっています。 -
問題は、技術が進化しても、アドオンが当時のまま残り続けることです。
過去の実装方式そのものを維持し続けると、アップグレード時の移植対応、性能問題、技術者不足、運用負荷といった課題が残り続けます。 -
特にSAP S/4HANA移行プロジェクトでは、業務を大きく変えないこと、ユーザ教育を最小化すること、本番障害を防ぐことが重要な成功条件になります。
そのため、「標準機能へ置き換える」よりも、「現行機能をそのまま移植する」方がプロジェクトとしては安全です。これは決して間違った判断ではありません。
各プロジェクト単位では、現行踏襲は合理的な選択です。一方で、プロジェクト単位で合理的な判断が、必ずしも長期的なシステム全体の最適解になるとは限りません。
移行時のリスクを抑えるために現行踏襲を選ぶことは有効ですが、その判断が繰り返されると、過去の実装方式が残り続け、将来のアップグレードや機能拡張の制約になることがあります。
だからこそ、移行を終えた後、または移行を検討する段階で、一度問い直す必要があります。
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Fit to Standardの議論を進める前に、重要な前提があります。
競争力の源泉はどこにあるのか
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- 何を標準化し、何を残すべきなのか。判断の軸になるのが、「共通化すべき基盤領域」と「差別化すべき競争領域」の切り分けです。
| 領域の分類 | 対象業務の例 | 求められるアプローチ |
|---|---|---|
| 基盤領域 (共通業務領域) |
法定会計、基本的な購買・支払など | 【Fit to Standard】 SAP標準機能を起点に業務を見直し、運用保守コストと将来変更時の負荷を抑える。 |
| 競争領域 (差別化領域) |
独自の生産計画ロジック、品質管理・トレーサビリティ、需要予測など | 【In-App/Side-by-Side拡張】 自社の強みを維持・進化させるため、戦略的に投資を集中する。 |
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- 業種によって競争の軸は異なりますが、「共通化すべき基盤領域」と「差別化すべき競争領域」が混在しているという構造は共通しています。
「改修すべきか」ではなく「どこを改修すべきか」
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Fit to Standardは、SAP標準機能や標準プロセスを起点に、業務やシステムのあり方を見直す考え方です。
この視点でFit to Standardを捉え直すと、議論の構造が変わります。 - 問うべきは、「このアドオンは残すべきか、廃止すべきか」だけではありません。本当に問うべきなのは、「この改修は、競争力に関わる領域か」ということです。
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競争力に直結しない領域(例えば法定会計、基本的な購買伝票処理など)は、SAP標準機能を起点に見直すことが合理的です。
これらを必要以上に独自実装として抱え続けると、アップグレードのたびに確認や改修が必要になり、運用保守の負荷が高まります。 -
一方で、競争力の源泉となる領域は、単純に標準化すればよいとは限りません。
例えば、独自の生産計画ロジックが自社の強みになっている場合、そのロジックをSAP標準機能へ単純に置き換えることで、競争優位を失う可能性があります。
顧客対応の速さや品質管理の精度を支えている業務ルールを、単なる「アドオン」として一律に削減対象にするのは適切ではありません。
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Fit to Standardは、SAP標準機能や標準プロセスを起点に、業務やシステムのあり方を見直す考え方です。
差別化領域は「正しい場所」で拡張する
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Clean coreは、独自性を維持しながら、コアシステムの持続可能性を高めるための考え方です。
Clean coreの考え方では、差別化領域を否定するのではなく、差別化領域を「正しい場所」で拡張することが重要になります。 - 具体的には、要件の性質に応じて拡張の場所を選びます。
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Clean coreは、独自性を維持しながら、コアシステムの持続可能性を高めるための考え方です。
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●SAP標準機能で対応できるものは標準の範囲で実現する。設定やカスタマイズで対応できるものも、まず標準の枠組みで検討する。
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●コアシステムから切り離すべき独自アプリケーションや高度なロジックは、SAP BTPを含む外部拡張基盤や周辺システムとの連携も選択肢に入れる。
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SAP BTPは、SAP標準機能との疎結合な拡張や外部サービスとの連携を実現するうえで、有力な選択肢の一つです。
一方で、ライセンス、運用、性能、接続方式なども踏まえ、要件に応じて適切な実装基盤を選定する必要があります。 - 重要なのは、既存アドオンをそのまま別の基盤へ移植することではありません。置き場所を変えるだけでは、独自ロジックに含まれる業務上の意味や判断の根拠が見えないまま残る可能性があります。
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独自機能がどの業務ルールや判断条件を支えているのかを整理すること。
そして、SAP標準機能やデータ構造との関係を明確にしたうえで、どこに実装すべきかを判断することです。
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SAP BTPは、SAP標準機能との疎結合な拡張や外部サービスとの連携を実現するうえで、有力な選択肢の一つです。
投資の選択と集中という本質
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- アドオンの「数」を減らすことが目的ではありません。改修の「場所」と「意味」を見直すことが目的です。
- SAP S/4HANA移行やClean coreへの対応を検討する際には、二つの問いを立てることを推奨します。
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●このアドオンは、自社のどの業務価値を支えているのか。今も競争力の源泉か、それとも当時の技術制約への対応か
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●残す場合、SAP S/4HANAのコア領域に残すべきか、それともSAP BTPなどの外部拡張基盤で実現すべきか
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- この問いに答えられるかどうかが移行プロジェクトを「単なるシステム更新」にするか、「SAPシステム資産の戦略的再評価」にするかを分けます。
- その本質を理解した上でFit to Standardを捉え直すことは、SAP S/4HANAへの投資を「単なる移行」に終わらせず、将来の変化に対応できるSAPシステム基盤へつなげる第一歩です。
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アドオンを一つひとつ見直すという地道な作業の先にあるのは、経営が「システムが許す範囲」に縛られず判断できる状態です。
それが、Clean core時代にFit to Standardを捉え直す本当の意味だと私たちは考えます。
