SAPプロフェッショナルコラム

SAP S/4HANA移行後もコストが下がらない理由
― 見落とされがちなデータ肥大化

SAP S/4HANAへの移行後、「コストが想定より高い」「データは増えているが活用できていない」といった声を耳にすることが少なくありません。

SAP HANAデータベースのメモリ使用量が想定を超えて増え続けている

クラウド移行後もインフラコストが高止まりしている

データは溜まっているのに、活用の議論が進まない

  • こうした状況は単なるIT課題ではありません。投資効率や意思決定速度に直結する経営課題です。とりわけ、データ量の増加は財務上見えにくい固定費の増加を意味します。
    本コラムでは、この構造的な問題と、SAP S/4HANA環境におけるデータ最適化の視点を整理します。
    コストが高止まりする企業には、共通したパターンがあります。

「機能」は設計したが、「データの持ち方」は設計しなかった

移行時にデータの棚卸しを行わなかった

クラウド移行を単なる「場所の移動」によるコスト削減策と捉えていた

  • これらは個別の判断ミスというよりも、「機能(何ができるか)」に偏重し、「データ(何をどう持つか)」を後回しにしてきた従来のプロジェクトの進め方そのものに内在する構造的な落とし穴と言えるでしょう。

SAP S/4HANAは"データが集まりやすい構造"

  • SAP S/4HANAは、従来のERPと比較してデータが一箇所に集約されやすい設計になっています。
    例えば会計領域では、Universal Journal(ACDOCA)に代表されるように、複数テーブルに分散していた情報が統合されています。これは分析の観点では大きなメリットである一方、使うデータも、使わないデータも、同じ場所に蓄積されやすい構造でもあります。

「データの量」が経営課題になる構造

  • 経営判断として押さえておきたいのは、データ管理設計を誤ると、その影響が固定費の増加として顕在化しやすいという点です。
    整理されていないデータを抱えたまま運用を続けると、以下のような悪循環が生まれます。
    使われないデータの蓄積がインフラコストを押し上げ、処理性能や分析精度にも影響を与えるリスクが高まる。
    結果として投資効果が出にくくなり、次の成長投資に回せる資本が減っていく。
    この構造が、移行後にコストが高止まりする企業が多い理由の一つです。

データ最適化は「後片付け」ではなく「経営基盤の整備」である

  • SAPシステム導入やアップグレード時に「どの機能を使うか」は議論されます。「どのデータを、いつまで保持すべきか」は、ほとんど議論されません。機能は設計されますが、データ保持の設計は後回しにされがちです。その積み重ねが、気づけば「肥大化」という形で現れます。
    従来、データアーカイブはストレージ容量を抑えるための「コスト削減施策」として語られることが多い領域でした。
    しかしその位置づけが変わりつつあります。

【データ最適化がもたらす効果】

分析精度の向上:ノイズが減ることで、意思決定の根拠が明確になる

意思決定の速度向上:情報過多の状態を解消し、経営判断のスピードが上がる

  • データ最適化とは単なる削減ではなく、データ資産の価値を高めるための整理であり、DXやデータドリブン経営といったデータを競争優位の源泉とするための前提条件となります。

データ最適化は「アーカイブすればよい」という単純な話ではない

  • データ最適化というと「アーカイブすればよい」と捉えられがちですが、実際にはデータの性質や利用頻度に応じて複数のアプローチを組み合わせる設計が求められます。
    対象となる主なデータ種別は以下の通りです。

会計・在庫などの基幹トランザクションデータ

統合により巨大化しやすいSAP S/4HANA特有のテーブル群

RFCログ(システム間の連携処理履歴)や監査系データ

  • これらは業務上重要であり、安易に削除できるものではありません。重要なのは、「何を減らすか」ではなく、「どこに、どう置くか」という設計視点です。その設計を実現するための技術的な選択肢として、SAP S/4HANAでは以下のようなデータボリュームを管理する標準機能が用意されています。

データアーカイブ:アクセス頻度の低いデータを外部へ移動

データエージング:アクセス頻度の低いデータをメモリから切り離す

NSE(Native Storage Extension):アクセス時のみキャッシュへロード

RISE with SAPやクラウドでも避けて通れないテーマ

  • 「クラウドに移行すれば解決するのでは?」という声もあります。確かにインフラ管理の負担は軽減されます。
    しかし、データ量そのものが減るわけではありません。むしろパブリッククラウドやRISE with SAP環境では従量課金モデルにより、データ量の影響がコストとして可視化されやすくなります。
    運用の責任は移っても、データの責任はユーザ企業に残ります。クラウド移行とデータ最適化は、セットで検討すべきテーマです。

実際のプロジェクトで見られた変化

  • 実際のプロジェクトでも、具体的な成果が出ています。
    あるお客様ではSAP S/4HANA移行後にSAP HANAデータベースメモリのリソース問題に直面。NHSの「SAPシステムデータアーカイブ&エージングソリューション」をご採用頂き、データ増加の構造的原因の特定から実装まで一貫して対応することでSAP HANAデータベースのメモリ使用量を約75%削減(約1200GB→約300GB)しました。
    ※削減効果はシステム構成・データ特性によって異なります。
    この75%削減は単なるコスト削減にとどまりません。将来のデータ増加に対しても余裕のあるキャパシティを確保することで、追加のハードウェア投資や拡張コストを抑制しながら性能を維持・向上させる選択肢を確保できます。これはインフラ投資の効率化と経営の柔軟性を同時に実現することを意味します。
    またデータ最適化によりメモリ上に保持されるデータ量が整理されることで、トランザクション処理やレポート実行のレスポンスが改善し、ユーザ操作の快適性が向上したケースもあります。このように、データ最適化はインフラコストの抑制だけでなく、日々の業務効率やユーザエクスペリエンスの改善にもつながる可能性があります。
    いずれにしても重要なのは特定のツール単体の効果ではなく、「どのデータを、どう扱うか」という整理の設計です。データ管理戦略の巧拙が、経営判断の質を左右する時代に入っています。

おわりに

  • データ最適化は、

SAP HANAデータベースの価値を引き出すための整備であり

データ活用の精度を高めるための前提であり

競争優位の源泉を築くための基盤づくり

  • でもあります。
    まず取り組むべきは、「自社のデータの現状把握」です。
    自社のSAP HANAデータベースのメモリ使用量の内訳は把握できていますか?どのデータが、どれだけのリソースを消費しているか――その可視化なしに、有効な手を打つことはできません。現状を把握することで、どの手法が有効か、どこから着手すべきかが初めて見えてきます。
    NHSでは、専門家による実機診断を通じて、現状のデータ構造・コスト影響・改善余地を可視化し、最適なアプローチをご提案しています。
    「まず現状を知りたい」という段階からご相談いただけますので、お問い合わせください。
    ※本コラムは、NHSが実際のプロジェクトで得た知見を踏まえて整理したものです。

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