SAPプロフェッショナルコラム
Clean coreとは何か
― 経営判断の自由度を、システムに奪われないために ―
「この新規事業、システム的に難しいです」
経営会議で、こうした言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
こうした状況を変える鍵として、SAP社が提唱しているのが「Clean core(クリーンコア)」です。
ERPのコアを極力標準のまま保ち、カスタマイズや独自アドオンを最小限に抑える設計思想で、保守性やアップグレード容易性の文脈で語られることが多くあります。
しかし経営の視点では、より本質的な意味があります。それは、経営判断の自由度そのものを守ることです。
経営判断は、静かに「選べなくなっていく」
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「この組織再編は影響が大きく、すぐには判断できない」
「システム面で、まず調査が必要です」 -
これ自体は健全なプロセスです。問題は、こうしたやり取りが常態化している場合です。
本来は、戦略が先にあり、ITはそれを支える存在のはずです。しかし気づかないうちに、経営の選択肢は「システムが許す範囲」に縮んでいく。
例えば、
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「この組織再編は影響が大きく、すぐには判断できない」
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●本来なら段階的に試せたはずの組織再編を「影響が読めない」という理由で一括実施にせざるを得なかった
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●事業ポートフォリオの見直しを検討したが、システム変更の不確実性が高く、判断自体を先送りした
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- こうした場面は、決して珍しくありません。
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経営判断の自由度が、構造的に削られている状態です。この状態を放置することが、どれほどの機会損失を生んでいるのか。
その問いに向き合うところから、Clean coreは始まります。
Clean coreは「IT施策」ではなく「経営の保険」
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Clean coreとは、将来の経営判断において「できるかどうか分からない」という不確実性を増やさないための備えです。
システムが複雑化し、個社仕様が積み重なるにつれ、
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Clean coreとは、将来の経営判断において「できるかどうか分からない」という不確実性を増やさないための備えです。
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●システムの変更コストや期間が読めなくなる
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●想定外のリスクが後から顕在化する
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●経営判断が遅れ、機会を逃す
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- といった状況が起こりやすくなります。
- これはコスト削減の話ではなく、予測できない状態そのものが、経営リスクなのです。
Clean 標準か、独自か、という二択ではない
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- Clean coreを「標準化」や「アドオン削減」の話として捉えると、議論が極端に振れがちです。
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●すべてを標準機能に合わせるべきなのか。
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●それとも独自性を守るべきなのか。
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- 実際には、その二択ではありません。
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重要なのは、何を標準機能に委ね、何を自社の判断領域として残すのかを、経営として意識的に選び取っているかどうかです。
Clean coreとは、自社の競争力がどこにあるのかを、システム構造として明文化していく営みでもあります。
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重要なのは、何を標準機能に委ね、何を自社の判断領域として残すのかを、経営として意識的に選び取っているかどうかです。
Clean coreがもたらす、見えにくい変化
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Clean coreの効果は、すぐに数字として現れるものではありません。しかし、経営の意思決定プロセスには、確かな違いが生まれます。
例えば、
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Clean coreの効果は、すぐに数字として現れるものではありません。しかし、経営の意思決定プロセスには、確かな違いが生まれます。
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●新しい経営施策を検討した際に、議論が止まりにくくなる
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●IT部門との対話が「できない理由」から始まらなくなる
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●経営判断に要する時間が、徐々に短くなる
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- 組織再編や事業再構築といった経営施策を検討する場面では、「業務や権限の変更が、どこまでシステムに影響するのか」が早い段階で論点になります。
- 多くの企業で見られる傾向として、Clean coreが保たれている場合は、影響調査から対応方針の見通しまでを比較的短い期間で描ける一方、システムが複雑化している場合は、影響調査そのものに長期間を要することも少なくありません。
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これは、経営判断と実行の間にある「見えない壁」が低くなった状態、つまり心理的な摩擦が減っている状態です。
ITが制約条件ではなく、前提条件として機能し始める。
これがClean coreの本質的な価値です。
Clean coreは「今すぐやるかどうか」の話ではない
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Clean coreは、企業の成熟度や事業フェーズによって、取るべき選択肢は異なります。
将来どの方向に進む可能性があるのかを踏まえ、その選択肢を失わない状態を維持できているかです。
Clean coreは、選択肢を確保し続ける体力づくりに近い考え方だと言えます。 - ここまで見てきたように、Clean coreの本質は技術そのものではなく、経営としての判断と、その積み重ねです。
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では、この考え方を、経営としてどのように受け止めればよいのでしょうか。
SAP社は、Clean coreを5つの基本原則(ビジネスプロセス・拡張性・データ・統合・運用)で定義しています。
これらは技術的には明確な指針ですが、実際に企業がこれを実現するには、技術作業だけでなく、経営判断が不可欠です。
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Clean coreは、企業の成熟度や事業フェーズによって、取るべき選択肢は異なります。
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●プロセスを標準に合わせる → どの独自業務を“標準化の対象とするか”を整理する判断
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●拡張性を保つ → 何を外だしし、何をコアに残すかの設計
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●データを整理する → 何を削除し、何を保持するかの判断
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- つまり、SAP社が示すClean coreの原則は「やり方」であり、企業が決めるべきは「何を」「なぜ」です。
経営者にとっての問い
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- Clean coreを考える際、経営者にとっての問いは、次の一点に集約されます。
- 「このERPは、次の経営判断を支えられる構造になっているか」
- もし即答できないのであれば、それは技術の問題ではなく、
これまで積み重ねてきた判断を見直す余地があるというサインかもしれません。
私たちの支援の考え方
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- NHSはClean coreを「システムをどう作るか」ではなく、「経営として何を選び、何を選ばないかを整理するための対話の枠組み」 として捉えています。
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●現行SAPシステムが、どのような判断の結果として構成されているのか
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●その判断は、いまも有効なのか
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●将来の経営判断にとって、制約になり得る箇所はどこか
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こうした点を可視化し、経営として向き合うべき論点を整理するところから始めます。
結論を急ぐ必要はありません。Clean coreは、企業ごとに進め方が異なるからです。
まずは無料相談で、現状の可視化と論点整理からお手伝いします。
お気軽にお問い合わせください。
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こうした点を可視化し、経営として向き合うべき論点を整理するところから始めます。
おわりに
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Clean coreは、システムをきれいにするための施策ではありません。
また、特定の方針に従うかどうかを迫るものでもありません。 - それは、経営として 「選べる状態」 を維持するための準備です。
- 貴社のERPは、これからの意思決定を支えられる構造になっているでしょうか。
そこから見えてくるギャップこそが、貴社にとってのClean coreの出発点です。
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Clean coreは、システムをきれいにするための施策ではありません。
